「給与をPayPayで受け取りたい」——そんな従業員からの相談が増えている。
2023年4月に法令上解禁された給与デジタル払い(ペイロール解禁)は、2026年現在、従業員側の認知度が上がり、中小企業にも導入の波が押し寄せている。ただし対応を間違えると労働基準法違反になるリスクがあり、仕組みを正しく理解した上で導入する必要がある。
この記事では、給与デジタル払いの仕組みから実務手順、メリット・デメリット・注意点まで、中小企業の経営者・人事担当者向けに解説する。
給与デジタル払いとは——法律上の定義と条件
給与デジタル払いとは、従来の銀行振込に加えて、厚生労働省が指定した「資金移動業者」のアカウントに給与を振り込める制度だ(労働基準法施行規則の改正により2023年4月施行)。
ただし以下の条件を満たす必要がある。
- 従業員の同意が必要:全員に強制することはできない。希望する社員のみ対象
- 1アカウントあたりの上限額:100万円以内(超過分は銀行口座に振込)
- 厚生労働省指定の「資金移動業者」限定:PayPay・楽天ペイ・d払いなどが順次指定
- 「破綻時の保証」が義務付けられている:指定事業者はユーザー資産の100%を保全する義務がある

2026年時点の指定資金移動業者と対応状況
| 事業者 | ブランド | 指定年 | 対応状況(2026年5月) |
|---|---|---|---|
| PayPay | PayPay給与受取 | 2024年 | ◎ 最も普及。中小企業向けサービス拡充中 |
| 楽天ペイ | 楽天ペイ給与払い | 2024年 | ○ 楽天経済圏ユーザーに人気 |
| d払い(NTTドコモ) | d払い給与 | 2025年 | ○ ドコモユーザー中心に普及 |
| その他(LINE Pay等) | — | — | △ サービス終了・統合が進む |
2026年現在、最も実績があるのはPayPayだ。中小企業向けの給与振込API提供が整備されており、既存の給与計算ソフト(弥生・freee・マネーフォワードなど)との連携もできる。
中小企業が給与デジタル払いを導入する手順
ステップ1:就業規則・賃金規程を改定する(所要:1〜2週間)
給与の支払い方法を規定している就業規則・賃金規程に「資金移動業者への支払い」を追加する。労働基準監督署への届出(10名以上の事業所は必要)も行う。この手順を省略すると労働基準法違反になる。
ステップ2:指定資金移動業者との契約(所要:1〜4週間)
PayPayなどの指定事業者と法人契約を結ぶ。契約審査に時間がかかる場合があるため、早めの申し込みが必要。契約後、振込用のシステムIDが発行される。
ステップ3:従業員への説明と同意書取得(所要:1〜2週間)
全従業員に制度の説明会を実施し、希望者から書面での同意を取得する。同意した従業員だけに適用し、希望しない従業員は引き続き銀行振込のみにする。
ステップ4:給与計算ソフトとの連携設定(所要:数日)
弥生給与・freee人事労務・マネーフォワードクラウド給与などの給与計算ソフトにPayPay連携の設定を行う。多くのソフトでは担当者画面から設定できる。

従業員側のメリット——なぜ希望者が増えているか
- PayPayのポイント付与:PayPayで受け取るとYahoo!ショッピングやPayPayモールでのポイント還元率が上がる(PayPayカードゴールド保有者など条件あり)
- 銀行口座不要の外国人労働者への対応:銀行口座開設に時間がかかる外国人スタッフに即日支払いができる
- 即日・前払い需要:一部サービスでは給与の前払い機能を提供
経営者が注意すべきリスクと落とし穴
注意① 強制適用は労働基準法違反
「全員PayPay払いに変更します」は違法。あくまで従業員の任意同意が前提だ。同意を取らずに実施した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になる。
注意② 100万円上限を超える給与は銀行振込が必要
月給や賞与が100万円を超える場合、超過分は銀行振込しなければならない。高収入の役員・管理職がいる会社では、銀行振込との併用管理が必要になる。
注意③ 給与計算ソフトの対応状況を確認する
古いバージョンの給与計算ソフトは、デジタル払い連携に対応していない場合がある。導入前に使用中のソフトの対応状況を確認すること。
よくある質問(FAQ)
Q. 導入コストはどれくらいかかる?
A. PayPayの場合、法人契約は基本無料(振込1件ごとの手数料が発生する場合あり)。給与計算ソフトの連携設定は既存の月額プランに含まれていることが多い。初期コストはほぼゼロで始められるケースが多い。
Q. 外国人労働者向けに使えるか?
A. 外国籍の方もPayPayアカウントを開設できる(在留カードが必要)。銀行口座がなくても給与を受け取れるため、特に製造業・建設業・介護業での外国人雇用が多い職場での需要が高い。ただし本人確認(KYC)の手順は必要なため、入社初日から即日使えるわけではない。
Q. 何人以上の従業員がいる場合に導入メリットが大きい?
A. 規模より「PayPayユーザーが多い職場か」の方が重要。パート・アルバイト・若年層が多い飲食・小売・介護では需要が高い。逆に全員が銀行振込を希望している職場では無理に導入する必要はない。
Q. 社会保険料・税金の天引きは変わる?
A. 変わらない。給与計算(控除計算)は従来通り行い、手取り分をデジタル払いにするだけ。源泉徴収・社会保険料の計算・年末調整も変更なし。



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