「使いにくい」「前の方が早い」——結局みんな、慣れたExcelに戻っとる。
数百万円かけてグループウェアを導入した会社が、3ヶ月後にはExcelに戻っていた。PowerAppsで作ったアプリが、1ヶ月で誰もログインしなくなった。こうした話は珍しくない。
「DXを進めたいのに、作ったものが使われない」——その原因はPowerAppsが悪いのではなく、PowerAppsが現場に合っていない使い方をされていることにある。そして2025年、この問題に新たな視点が加わった。「AIで作れる時代」に、選択肢の整理が必要になっている。
PowerAppsの「使いにくい」は3種類ある
現場の声を集めると、PowerAppsへの不満は大きく3つに分類できる。
①操作の直感性がない
SE経験のある情シス担当者でさえ、こう言う。「PowerApps初めは『何これ。データどうやって更新するの?画面変わったらデータ取り直すんじゃないの?!』みたいな感じでとっつきにくかった」。
SE経験者でこれだ。非IT系の現場担当者なら、最初の1画面で挫折する。
②動作の不安定さ
「Power Apps動かない。データへの登録のところで一生ロードしてて登録できない」——これはクラウドサービスの宿命でもあるが、現場の人間にとっては「使えないツール」の烙印を押す決定打になる。一度「動かない」と思われたツールは、二度と信頼されない。
③引き継ぎが難しい
ひとり情シスの担当者はこう言い切る。「Power Apps引き継ぎは不可能と見てます。簡単なRPA・VBAの引き継ぎも無理でしたので」。
作った本人しか中身がわからない。担当者が異動・退職した瞬間に、アプリが「ブラックボックス」になる。外注に出せば改修のたびにコストがかかる。この問題は、PowerAppsを使う限り常につきまとう。

2025年に加わった視点:「AIで作れる」時代になった
PowerAppsの問題に加えて、2025年には新たな現実が加わった。AIを使えば、非エンジニアでも業務ツールを数時間で作れる時代になったのだ。
Microsoft CEOのSatya Nadella氏は、Excel Agent Modeについてこう述べた。
ExcelのAgent Modeは本当に新しいことをする。Excelをコマンドするツールではなく、一緒に働くパートナーに感じさせる。
— Satya Nadella(@satyanadella)、Microsoft Chairman and CEO(フォロワー約400万人)
一方、note CXOの深津貴之氏(フォロワー約22万人)はExcelマクロについてこう指摘している。
努力が無駄になるのは方向性が間違っている場合が多い。手作業ではなく、Excelマクロのようなリユース可能な資産への投入を推奨する。
— 深津貴之(@fladdict)、THE GUILD代表 / note CXO
つまり、「PowerApps vs Excelマクロ」の二択だった問題が、「PowerApps vs Excelマクロ(AI活用)vs AIツール直接」という三択になっている。ツールを選ぶ前に、選択肢の整理が必要だ。
「使われないシステム」が生まれる本当の原因
PowerApps固有の問題だけではない。現場で使われないシステムには、共通した作り方の問題がある。
「DXが失敗する理由はシンプル。ツールを入れることが目的になって、『誰がどう使うか』を誰も真剣に考えていない」——これは現場支援の現場で繰り返し出てくる言葉だ。
PowerAppsで作ったアプリが難しいと言われ、度々修正が入る。リストを6個行き来する操作が億劫で、さらにPower Automateで修正作業を自動化しようとする——「何のDX?」という自嘲が出てくるのは、当然だ。
複雑さがまた複雑さを生む。この悪循環がPowerAppsの現場あるあるだ。
使い手ファーストで設計するとはどういうことか、詳しくは「DXで本当に大事なのは『使い手ファースト』だ」を参照してほしい。
PowerAppsを諦める前に確認すること
PowerAppsが「使えない」と判断する前に、確認すべきことがある。問題はツールではなく、使い方にある場合が多い。
現場の人間は設計段階から巻き込んだか
完成してから展開するのではなく、作る段階で現場の担当者を入れる。「自分たちが作ったもの」という感覚があると、使われ方が劇的に変わる。
シンプルに作れているか
機能を詰め込みすぎていないか。最初は1つの業務・1つの操作だけに絞る。リストが6個必要なら、それはアプリの設計が複雑すぎるサインだ。
引き継ぎドキュメントはあるか
作った本人だけが理解している状態は危険だ。画面の説明・データソースの構造・修正方法を、非エンジニアが読んでも理解できるレベルで残す。
それでもうまくいかないなら——代替ツールの現実
PowerAppsの問題を整理したうえで、それでも「現場に合わない」と判断するなら、選択肢を変えることを恐れる必要はない。
| PowerApps | Excelマクロ(VBA) | AI直接活用(Claude等) | |
|---|---|---|---|
| 導入コスト | Microsoft 365ライセンス必要 | Excelがあれば即日ゼロ円 | 月数百〜数千円(API利用料) |
| 習得難易度 | SE経験者でも戸惑う | AIと組み合わせで非エンジニアでも書ける | プロンプトを書ければOK |
| 現場への定着 | 「使いにくい」で離脱しやすい | Excelなのでそのまま使い続けられる | 用途によって使い分け可能 |
| 引き継ぎ | ブラックボックス化しやすい | ファイルそのものが資産になる | プロンプトを残せば再現可能 |
| スピード | 設計・開発に時間がかかる | AIでプロトタイプを数時間で作れる | 対話しながら即日完成 |

もちろんExcelマクロにも限界はある。大人数での同時編集、スマートフォン対応、外部システムとの連携——これらが必要な場面ではPowerAppsが有効だ。
ただ、現場のDX初期段階で「まず業務の効率化を1つ実現したい」という目標なら、ExcelマクロはPowerAppsより早く、確実に結果を出せる。具体的な使い方は「DX担当者が本当に使えるツールはどれか|PowerAppsより先にExcelマクロを選ぶべき理由」で詳しく解説している。
よくある質問
Q. PowerAppsをやめてExcelマクロに戻すのは「後退」では?
A. 後退ではない。現場に使われないツールを維持するコストは、ライセンス料だけではなく担当者の工数・モチベーションも消費する。使われるExcelマクロの方が、使われないPowerAppsより何倍も価値がある。
Q. ExcelマクロはAI時代に時代遅れでは?
A. むしろ逆で、AIとの相性が最もいいのがExcelマクロだ。「この処理を自動化したい」とChatGPTやCopilotに話しかければ、VBAコードが即座に生成される。プログラミング知識不要で、現場担当者が自分でメンテナンスできる資産が作れる。
Q. どんな規模の会社にExcelマクロは向きますか?
A. 特に50名以下の中小企業・現場部署でのスポット業務に向いている。同時編集が必要な場合や、スマホからのアクセスが必須の場合はPowerAppsやクラウドツールの方が適切だ。
まとめ:「使われないPowerApps」は、ツールの失敗ではなく設計の失敗だ
PowerAppsが現場で使われない理由を整理する。
- 操作の直感性がなく、非IT系担当者には難しすぎる
- 動作が不安定になると、現場の信頼が一気に失われる
- 引き継ぎができず、担当者が変わると止まる
- 現場を巻き込まずに作ると、完成しても使われない
- 2025年現在、AIを使ったExcelマクロという強力な代替が存在する
これらはPowerAppsの「欠陥」ではなく、「誰がどう使うか」を考えずに導入した結果だ。
PowerAppsを改善するにしても、Excelマクロに切り替えるにしても、出発点は同じだ。現場の業務を整理して、「誰が・何を・どう使うか」を先に決める。それだけで、同じツールがまったく違う結果をもたらす。
使われないシステムに月額料金を払い続けるより、今すぐ原因を特定して動き出す方が、はるかに生産的だ。



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