アプリを作って自己満してませんか?DXで本当に大事なのは「使い手ファースト」だ

あなたの現場に、誰も使っていないシステムはないだろうか。

IT部門が半年かけて構築したアプリ。デモでは「便利そう」と言われた。導入後、現場に説明会もした。だが3ヶ月後、誰も使っていない。代わりに現場は、相変わらず紙と口頭で動いている。

これは、DXあるあるだ。


DXプロジェクトはなぜ失敗するのか

マッキンゼー・アンド・カンパニーの2021年調査によると、デジタルトランスフォーメーションプロジェクトの約70%が目標未達または失敗に終わる。IPA(情報処理推進機構)の国内調査でも、ITプロジェクトの失敗要因の上位は「要件定義の不備」と「ユーザー側との合意不足」で、それぞれ60%超の企業が挙げている(IPA「ソフトウェア開発分析データ集」)。

その原因の筆頭は、「作り手と使い手のズレ」だ。

IT部門やDX担当者は、「機能の完成」をゴールとして動く。現場スタッフは、「今の仕事が楽になるか」をゴールとして評価する。この視点の違いが、使われないシステムを量産する。


ワンクリックの差が、現場を動かすか決める

Amazonは内部調査で「100ミリ秒の表示遅延が売上の1%低下につながる」という結果を示している。Googleも「モバイルページの表示が3秒以上かかると、離脱率が32%増加する」と報告している。

これはECサイトの話だが、現場のシステムでも同じことが起きている。

「ブラウザを開く→URLを入力する→ログインする→メニューを選ぶ→フォームを開く」という5ステップのアプリより、「Excelを開く→ボタンを押す」という2ステップの方が、現場で使われる。

機能がどれだけ優れていても、「使い始めるまでの摩擦」が高ければ現場は使わない。これは怠慢ではない。人間の自然な行動だ。

操作ステップ現場の反応
1〜2ステップ「楽になった」→ 習慣化する
3〜4ステップ「まあ使える」→ 気が向いたら使う
5ステップ以上「面倒くさい」→ 紙や口頭に戻る

数字が示す「作り手と使い手のズレ」

IPA「企業ITユーザー調査」によると、現場ユーザーの約68%が「現在使っているシステムは使いにくい」と感じている。一方、IT部門側で「システムの使い勝手に満足している」と回答した割合は約82%

同じシステムに対して、これだけの認識差がある。現場が「使いにくい」と感じているのに、作った側は「問題ない」と思っている。この構造が「誰も使わないシステム」を量産する。

さらにガートナー日本の2022年調査では、公式ツールではなく個人のスマホや非公認のクラウドサービスで業務をこなす「シャドーIT」を利用している日本企業の割合は約43%。現場が正式なシステムを迂回して動いているということは、そのシステムが現場の役に立っていないことの証明だ。

ux gap

フォレスター・リサーチの試算では、UXデザインへの投資1ドルに対して約100ドルのリターンが生まれるとされている。「使いやすさ」は感覚の話ではなく、投資対効果の話だ。


「作り手目線」と「使い手目線」の違い

作り手(IT部門・DX担当)が重視するもの:

  • 機能の網羅性(全部入り)
  • セキュリティとアクセス権限の厳密さ
  • データの整合性・バリデーション
  • 将来の拡張性

使い手(現場スタッフ)が重視するもの:

  • 今より速いか・楽か
  • 覚えることが少ないか
  • ミスしたときに戻れるか
  • 慣れ親しんだ道具に近いか

この2つはしばしば衝突する。機能を増やすほど画面は複雑になる。セキュリティを強化するほどログインが面倒になる。将来の拡張性を考えるほど、今の使い心地が犠牲になる。

使われないシステムは、どれだけ高機能でもゼロの価値だ。


使い手ファースト設計の5原則

① まず「使う人」に3日間張り付いて観察する

仕様書を書く前に、使う人の1日を観察する。「今何をしているか」「どこで困っているか」「何に時間がかかっているか」を記録する。ヒアリングではなく観察だ。人は「困っていること」を言語化できないことが多い。

② 機能は「引き算」から始める

最初から全機能を作ろうとしない。「これだけあれば今の問題が解決する」という最小限の機能だけで始める。後から足すのは簡単。最初から詰め込むと、使い手は圧倒されて使わなくなる。

③ ステップ数を数える

「この作業をするのに何クリック・何入力が必要か」を数える。目標は現状より必ずステップを減らすこと。ステップ数が増えるなら、そのシステムは現場を助けていない。

④ 現場スタッフに「実際に触ってもらう」テストをする

IT部門の人間がテストしても意味がない。実際に使う人に触ってもらい、「どこで迷ったか」「どこが分からなかったか」を記録する。説明なしに使えることがゴールだ。

⑤ 「使われていない」を正直に評価する

導入3ヶ月後に使用率を確認する。「使われていない」なら原因を直視する。よくある言い訳「教育が足りない」「現場の意識の問題」は、ほぼ間違いだ。使われない原因は99%、システム側にある。


Excelが使われ続ける理由はここにある

多くの現場でExcelが使われ続けるのは、「古いから」でも「ITリテラシーが低いから」でもない。Excelは使い手ファーストの設計になっているからだ。

  • ファイルをダブルクリックすれば開く(ログイン不要)
  • セルに直接入力できる(フォームを探す必要がない)
  • Ctrl+Zで何でも戻せる(ミスへの恐怖がない)
  • 紙の帳票をそのまま再現できる(慣れた形のまま使える)

Excelを超えるシステムを作りたいなら、これらの「低摩擦」要素を上回る使いやすさを実現しなければならない。それができていないシステムは、Excelに負ける。

▶ 関連記事:DX担当者が本当に使えるツールはどれか|PowerAppsより先にExcelマクロを選ぶべき理由


まとめ:「動く」より「使われる」を目指す

DXの成功は、システムが「動くこと」ではなく、現場で「使われること」で決まる。

使い手が感じる「ちょっと面倒くさい」は、必ず行動に現れる。その積み重ねが「誰も使わないシステム」を作る。

次にシステムや業務ツールを作るとき、一度だけ自分に問いかけてほしい。「これ、本当に現場の人が使いたいと思うか?」

その問いが、使われるDXと使われないDXを分ける。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

「うちにも使われていないシステムがある」という方、どんな状況か教えてもらえると嬉しいです。

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